-:*:。:*:..冬のソナタ 今更ながらの創作文-:*:。:*:..

           ~ ユジン ・ チュンサン ・ サンヒョク ・ チェリンの未来と、ヒョンス ・ ミヒ ・ チヌの過去の物語 ~


雪だるまon the bench


このブログは
 冬のソナタの登場人物たちのその後、を想像して文章を綴ったものです


時期は
 チュンサンがアメリカ、ユジンがフランスへ旅立ってから3年後。 
 二人が不可能な家で再会する少し前からスタートします。
 彼らが31歳のときの、冬~春~夏の半年間を 中心に投稿しました。
 エピローグ的に、そこから5年後(...36歳)の部分も少し入っています。


主人公は
 同時進行で、次の3つの話があり、それぞれの3カップルが主人公です。       

 ユジンたちの物語  スタートはここ
  前:本編ラストシーン・外島で ユジンとチュンサンが過ごした空白の数時間です
  後:チュンサンの父キム・ジヌが語る、カン・ミヒとの過去など
   
  「…マルシアンで初めてイ・ミニョンさんに…あなたに会った時とおなじだった…
           あの時も、ピースをはめたらすぐ…あなたが現れたわ」


 サンヒョク物語   スタートはここ
  放送室で詩を朗読した女性・ソヨンと、サンヒョクの恋物語です。(5つの章立て)
 
       ” でも、私の初恋が また 私を呼んだら どうすればいいのでしょう”

 チェリン物語   スタートはここ
  オ・チェリンの、セカンドラブストーリーです。 (5つの章立て)

       「どうして私が愛する人は、私を好きになってくれないの…?」

 (共通のエピローグ)
  4つの家族の、外島での夏の一日

        「ねぇ、ママ…ぼくが拾ったコインで、
                       大きな船が 買える…?」

     
3つの話は
 ゆるやかにつながっており、1つの話として読むこともできます。全体をみる
 カテゴリー「通し読み」から道なりに読めます。
 記事は160余り。一つ文庫本1ページくらいですが、
 一気に読もうとすると、結構長いかもしれません。 スタートはここ


付録ブログ?
 魚拓したブログが もう一つあります。→   ~に書ききれなかったもの 
 いままでの経緯や、単発記事などを収納しました。

写真について
このブログで掲載している写真の一部は、お借りして転載させていただいたものです。
 オリジナルは、次のとおりです。素敵な写真の使用をご快諾いただき有難うございます。
      ◎『冬のソナタ』~彼らがいた風景 ( http://wintersonata.fc2web.com/
      ◎ 松本博文ブログ( http://mtmt-blog.com/





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 ユジンがフランスへ、チュンサンがアメリカへ渡ってから まもなく3年。

        ユジン、チュンサン、サンヒョク、チェリン、チンスク、ヨングク。

  別々の日常を過ごしていた仲間たち。

  31歳になった彼らが、新しい出会いを経て、不可能な家に集うまでの物語です。
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               冬のソナタ ・ チェリン物語 <起>




2月。小雪がちらつくソウルの夜。

チェリンのブティックから明かりが漏れる。

「右の方にも置いてみて...!」

店を閉めたあと、ショーウィンドウの模様替えが行われている。

春の装いのマネキンの周りに、男性コーディネーターが花びらのようなものを置いている。


作業を見ているチェリン。

「なんだか、いまいちね...」

腕組しながら、小さく舌打ちする。

 「やっぱり、グリーンの方がよかったわ。」

業界ふうのジーパンを着たコーディネーターが、うんざりした顔で言う。

「またですか....」

「パールピンクって...言ったじゃないですか...」  ぶつぶついう。

コーディネーターをじろっとみる。

「.......文句言わないで、言うとおりにして!」

上着をとると、入り口に向かいながら命令口調のチェリン。

 「もういちど グリーンの方をちらしてみて...!外から見てくるわ」

へいへい...とパールピンクのパーツを集めにかかるコーディネーター。

「気のつえー女...」

レジの所で伝票を整理していた女性スタッフが くすっと笑う。


  *  *


「先生、お疲れ様でした...」

 「おつかれさま」

模様替えが終り、最後のスタッフも帰る。


店のかぎを閉めるチェリン。

車の方へ向かうが、乗る前にもういちどショーウィンドウを眺める。

まだ、ちらちら雪が舞っている。

しばらく見ていたが、冷たい風に首をすくめ、歩き出すチェリン。

「寒いのは もう うんざりよ...」

独り言をいうと、運転席のドアを開ける。


  *  *


3日後、ソウルの洒落たバー。

黒で統一されたカウンターで、チェリンが一人 グラスを傾けている。

「いらっしゃいませ」

店内に女性客が入ってきて、きょろきょろする。

よそ行きの服を着たチンスク。

チェリンをみつけると、笑顔で近づき 「チェリナ...。」と声をかける。

「ごめんね...遅くなっちゃって...」

やっときたわね...と言う顔のチェリン。

 「遅いわよ、チンスク。30分は待ったわよ...」

チンスクは、「ごめん ごめん....」といいながら店内を見まわす。

「あぁ~、こういうところ久しぶり...!最近、
      チヒョンを連れていってもいいような店しか行かないから..
                          ......あ、焼酎ストレートね!」

うきうきと隣に座るチンスク。

( つづく)
 

 
(つづき)

「チェリナ...」

チンスクがチェリンの顔を横から覗くようにして言う。

「なんだか あんまり顔色良くないけど....大丈夫?」

一口飲んで、「そう....?」とチェリン。

「忙しいのよ...誰かと違って!」

「...悪かったわね...暇人で...!」とむくれるチンスク。

でも、本当に青白いな...と心配そうにチェリンの顔を見る。

チェリンは、「大丈夫よ...!」 とヒジでチンスクの腕をつつく。

「...それに...ちょっと具合悪そうな方が、なんとなく魅力的じゃない...。」

髪を掻きあげるチェリン。

「へっ....?」

変な顔のチンスク。


  *  *


「ところで...ユジンから、連絡あった?」

グラスを揺らしながら、チェリンが問う。

ううん、と首を振るチンスク。

「...随分前に手紙がきたっきり、ないわ....」

「まったく!」 と グラスをカウンターに置きながら言うチェリン。

「どういうつもりなのかしら....チョン・ユジン!」

勢い良く、隣を見る。

「いくらなんでも....友達とは思えないわ!」

チンスクが、すこし困ったように言う。

「前の手紙では...この春には、大学も卒業できるって...書いてあったけど」

語気を荒げるチェリン。

「みんな心配してるのに...その気になれば、電話でもなんでも できるはずよ!」 

チェリンの前方に立っているバーテンが、自分が怒られているのかとチラチラ こちらを見ている。

「...私の推測なんだけど...」とグラスを見つめながらいうチンスク。

「ユジン、”願掛け”してるんじゃないかな...」

「 ”ガンカケ” ...?」

「うん...卒業するまで 私達や..チュンサンと連絡したり会ったりしないって...。
                    自分で自分に制約かけて...我慢してる、みたいな...」

「我慢って...何の為に...?」

「それは....わからないけど...」

三年前の、追いこまれたユジンの姿を思い出すチンスク。

  『....どう...かわいい...?』

               『.....今更....お洒落して どうするの....ユジナ』

         『...でも....
                  ......最後にいい印象を残しておきたいの....』

                    『 いい印象を残して どうするのよ....』

             『..........』

 「......」

黙り込む二人。


バーテンが、フルーツを差し出す。

チンスクは、明るい声で話題を変える。

「それより...チェリンはどうなのよ?...あの、なんとかっていう御曹司は?」

目線をあげるチェリン。

「あぁ...あの人とは別れるわ...」

あっさり言うと、チンスクを見て微笑む。

「..どうして...?いい感じなんじゃなかったの...?」

長いまつげを揺らすチェリン。

「...気持ちが冷めたの。」

「....」

無言だが、理由を聞きたそうなチンスクの視線。

ボトルが並ぶ壁を見ながらチェリンが言う。

「たった一言で、気持ちって離れるものね..簡単に」

「一言...?」

「そう、一言....でも、相手の中身がわかっちゃう一言。」

チェリンの抽象的な言い方に、あいまいにうなずくチンスク。


カットされたバナナをつまみながら、チェリンが言う。

「もう、私、結婚とか考えるのはやめたわ!...仕事に生きることにしたから!」

横を向いてチンスクに言う。

「チンスクも、もう少しチヒョンが大きくなったら、また手伝ってよ....忙しくて人が足りないし。
                     若い子ばかりで、なんだかやりにくいのよ...」


  *  *


数日後。チンスクのアパート。

チンスクが、台所で昼食の後片づけをしていると、電話が鳴る。

手をふきながら、受話器に近づくチンスク。

「もしもし...?」

「チンスク...おれ、おれ..」と相手が言う。

すこし、慌てた夫・ヨングクの声。

「いま、サンヒョクから電話があって....チェリンが...病院に運ばれたらしいんだ...!」

「...えぇっ!!...」

「なっ....どう......!...」と取り乱すチンスク。

「詳しいことはわからないんだ.....中央病院、行ける? これから...。
                       サンヒョクも俺も、今は手が離せなくて...」

「うん....うん...」と受話器に向かってうなずくチンスク。

「中央病院って...前にチュンサンが入院してたところよね...」

(つづく)
 
 


 
(つづき)

  *  *


中央病院の廊下。

倒れたチェリンの様子を見に、急ぐチンスク。

チヒョンを抱えて、小走りにかけてくる。


「511」 の部屋番号を確認すると、ドアを開ける。

ベットに横たわり、眠っているチェリンが、目に入る。

 「.......」

ベット脇の椅子に、心配そうに座っているブティックの女性スタッフが、こちらを見る。

スタッフに軽く頭を下げると、挨拶もそこそこに、詰め寄るチンスク。

「あの...どうなんです...?」

 「........」

女性スタッフは、一度ベットに目をやると 目配せして立ちあがり、廊下に出る。

後に続くチンスクとチヒョン。


廊下に出ると、チンスクの方に向き直り、軽く会釈する女性スタッフ。

チンスクも、それに合わせるように頭を下げる。

女性スタッフが口を開く。

「お店で突然倒れて.....意識がなかったので、私が、救急車を呼びました...。
                お医者様のお話だと、たぶん過労か何かじゃないかって...」

「過労...?」とチンスク。

「ええ...」と女性スタッフ。

「先生、この頃...毎日遅かったですし...」

数日前のバーで顔色が悪かったことを思い起こすチンスク。

少し考え込む。

女性スタッフが、努めて冷静に説明する。


「一時的なもので、心配ないだろうけれど、念の為 何日間か入院して検査を....。」

「一時的....そう....」 

チンスクは、少しほっとした笑顔を見せる。

「ママ...」

ぐずるチヒョンを下におろし、もういちど、病室を覗く。

先ほどと同じ態勢で眠っているチェリン。

薄手のブラウスの袖が、たくしあげられ 肘の内側から点滴のチューブが伸びている。


  *  *


「ぇーん....ヒィック...」

夜中。

近くから聞こえる子供の泣き声で、チェリンは、ゆっくりとまぶたを開く。

.......。

薄暗い部屋の中。

白い布が天井からドレープのように垂れ下がっている。

たっぷりした白い布をみて、何故かウェディングドレス用の純白の生地を 連想するチェリン。


「...いたい?....よしよし....」

子供の声に交じって、母親らしき人が子供をなだめる低い声。

にぶい頭で、ここにいる理由を考えるチェリン。

ブティックで気が遠くなった後の記憶がない。

......。

しばらくぼんやり考えるが、いつのまにか また眠りに落ちる。


  *  *


「おはようございます。」

翌朝、カーテンの向こうから、看護婦が顔を見せる。

目を開けたまま、横向きに寝ているチェリン。

「ご気分は、如何ですか...?」 健康そうな笑顔。

「良くはないです...」 不機嫌そうな声。

「.....朝食は、食べられそうかしら?」 

看護婦の馴れ馴れしい口調に ますます不愉快になるチェリン。

「食べたくないわ...」 と視線を合わせずに答える。


ブルーな患者の扱いに慣れた様子の看護婦は、さっぱりと言う。

「そうですかー....後で、ドクターの診察がありますから...
                        .....これに、着替えておいてくださいねー。」

ベットの上に、薄緑の病院着をおくと、足取り軽く子供の患者がいるらしい もうひとつのベットに向かう看護婦。

「おはよう! 具合はどうですか~」


チェリンは、仏頂面で 足元に置かれた病院着に目をやり、独り言をいう。

「こんなの....着るわけ...?」

(つづく)
  

(つづき)

  *  *


朝食の時間が過ぎ、カシャカシャと食器を片付ける音が廊下から聞こえる。

病院着に替えたチェリンは、だるそうに横になっている。


    「オ・チェリンさん、診察でーす」

先程の健康的看護婦の声。

白いカーテンが揺れて、看護婦と白衣を着た男性が入ってくる。

「『オ・チェリンさん』....っと。...食事は、
                        食べてない...っと。」

カルテに目をやりながら近づく白衣のドクター。

 30代半ば。 

 おそらく2~3日伸ばしたままの、不精ヒゲ。

 右の後頭部には寝グセ...。

一瞥した後、ツンと視線を外すチェリン。


「胸の音ききますね...」と看護婦。

チェリンは不機嫌そうに、枕から頭を持ち上げる。

ドクターの白衣の胸元に、『イ・ジョンヲン』という名札が見える。


ひととおりの診察が終わり、ドクターが言う。

「...たぶん、過労と貧血が原因だと思いますけど....念の為、MRI受けてもらいますから..」

カルテに何か書きこみながら聞く。

「質問ありますか...」 

チェリンが、無表情で 「ええ...」 と言う。

      「...どうして、ドクターは寝グセを直さないの?」

えっ...?と顔を上げ、驚くドクター。

一呼吸置いて、ぷっと笑う。

         「...ははっ!オ・チェリンさん....面白い人ですね!」

返事せずに、プイッと横を向くチェリン。

  「あと、相部屋は 体が休まらないわ...個室にしてください。」

扱いにくそうな人...という顔でチェリンを見ていた看護婦が言う。

   「.....あいにく、今、満室です。」

看護婦の方を見てから言うドクター。

      「...ってことです。」

ふん、とあざ笑うようにいうチェリン。

「じゃあ、退院します。...検査を待って寝てるほど、暇じゃないのよ...私..!」

笑顔が消えた看護婦が、「...オ・チェリンさん...!」と言いかける。

それを制するように、ドクターが スッと、たち上がる。

     「たまにはお仕事のことを忘れて、ボーっとすることも必要ですよ。」

         「...!...」 

ドクターをにらみつけるチェリン。

「どうしても退院...っておっしゃるなら、点滴しながらどうぞ。」

口元に笑いを浮かべて ドクターが、続いて冷たい表情の看護婦が、カーテンの向こうに消える。

   ....なによーー!

心で叫ぶ。

イライラが収まらない様子のチェリン。

勢いよく倒れこむと 布団を目深に掛ける。


不愉快なのに 頭では、先程の会話が 何度も再生される。

  『たまにはお仕事のことを忘れて、ボーっとすることも必要ですよ。』

      『...ははっ!オ・チェリンさん....面白い人ですね!』

          『...面白い人ですね!』


(つづく)
 
 

(つづき)
 
 *  *


昼食の時間。

   「オ・チェリンさん....お食事です。」

白いカーテンが引かれ、看護婦がトレーにのせた食事を持っている。

朝と違って、事務的な口調で言う。

   「食べ終わりましたら、廊下のワゴンに下げてください。」

      「.....」

相変らず不愉快な気分から抜け出せないチェリン。

看護婦は、物入れも兼ねている机の上に食事を乗せる。

枕のそばに、携帯電話があるのをみて、言う。

   「あ....病室内では、携帯は使用出来ませんから...ロビーか待合室でお願いします。」

返事は期待していない、というように、看護婦はさっとカーテンの向こうに消える。


気配が無くなると、起き上がるチェリン。

さすがに空腹に負ける。

少し開いているカーテンを完全に閉めると、お箸を持ち食べ始める。


病院の食事なんて...と思いつつ、チェリンは殆どのおかずを平らげる。

お腹が満たされたことで、不愉快な気持ちも少し癒されたように思える。

トレーを持って、廊下へ出るチェリン。

エレベーターの近くに、配膳用の大きなワゴンが置かれている。

自分のトレーを、既に置かれているいくつかのトレーに並べると、来た道を帰る。

ゆっくり歩きながら、病院着の襟元を気にするチェリン。

   ひどい服....デザインも何もないわ....。

万人向けに作られた病院着が、気に入らない。


「511」の部屋に戻る。

もうひとつのベットで食事をしている男の子と、その母親らしき人と目があう。

「こんにちは...」 と母親。

チェリンも、軽く会釈しながら 「こんにちは...」と 答える。

「あの...」と母親。

   「昨日の夜中、うちの子...うるさかったでしょう....ごめんなさいね...。」

チェリンは 「いえ...」と言いかけるが、
先程ドクターたちに「相部屋は体が休まらない」と言ったことを思い出して バツの悪い顔をする。

     「......」

   「おばさん、これ、どうぞ!」

男の子が、小袋に入ったお菓子をチェリンに渡す。

お、おばさん...!? と思いながら、お菓子を受取るチェリン。



  *  *


病院の待合室。チェリンが足を組みながら 携帯電話で話をしている。

   「...そう....。あと、入り口横のディスプレイはどうなったの..?」

ブティックの女性スタッフの声。

   「はい...先生のご指示どうり、靴や小物を間隔を空けて並べてあります。」

        「どの靴?メッシュの?...ああ...。小物は...?」

チェリンの細かい指示に、一つ一つ答える声。

チェリンの後の椅子に、白衣の男性が座る。


(つづく)


  
(つづき)

  「いいわ...とにかく、私が戻るまでちゃんとするのよ。

「....じゃ...」 と切ろうとすると、相手が何か付け加える。

   「えっ....あぁ..そう。...
    .....又 彼が連絡してきたら、『もう会いたくないって言っていた』って伝えておいて。」

白衣の男性の頭が、微かに動く。

       「..そうね。
             お店のことで、何かあったらすぐ連絡するのよ。」

長い電話が終わる。

携帯をパチンと閉めると、ため息をつくチェリン。


椅子の背後から声がする。

   「そんなんじゃ、個室だったとしても、体は休まりませんよ...オ・チェリンさん」

背後からの声にびっくりして振り向くチェリン。

ドクターがこちらを向いて笑っている。

           「いつから.....そこにいたんですか!?」

    「さあ...’メッシュの靴’くらいかな...」

失礼な人...!というように、ドクターを睨むチェリン。

        「何かご用ですか...!」

    「ええ、検査の時間をお伝えしようと。
                     ....明日の2時からです。」
  
        「わかりました。」

立ち上がり、待合室を出ていこうとするチェリン。

    「あ...オ・チェリンさん..」

ドクターは 立ち止まった背中に 軽く言う。

    「あなたがいなくても、お店も世の中も....
                     それなりに、なんとかなるものですよ 」
 
それを聞いて振りかえると、チェリンは 挑戦的な目で言う。

   「交代できるお医者様と違って、私の替わりはいないんです..!」

 「大きなお世話だわ...」 とつぶやいて部屋を後にするチェリン。

チェリンの反応を見て、たのしそうなドクター。


  *  *


入院2日目。

チェリンが 診察室で、診察を受けている。

聴診器で、呼吸音を聞いているドクター。

シーンとした部屋が居心地悪くて、つい嫌味が口を突くチェリン。

    「女性の体に触われて、いいお仕事ですね...」

それには答えず、音を聞くことに集中しているドクター。

       「.....」

何か言い返されると思ったのに、予想外に無視されて ますます居心地が悪いチェリン。

カルテを書きながら、ドクターが言う。

   「では、予定どおり 今日の午後、検査を受けてください。」

「安心料みたいなものですけどね...」と付け加える。

背もたれの無い、丸い椅子から立ちあがるチェリン。

その勝気な横顔に ドクター言う。

     「こんな美人の体に触れるんだから...医者になってよかったですよ...ホント..」

           「....!.....」

今度は、チェリンが無視して 診察室を後にする。

無性に、腹がたつ。


  *  *


その日の午後。

検査が終わったチェリンが、地下一階の検査室から出てくる。

外来で込み合うロビーを抜け、エレベーターに乗るチェリン。

5階のボタンに指を伸ばすが、少し考えて、別の階のボタンを押す。


外科の患者が入院している6階に、エレベーターが停まる。

エレベーターを降りて、右に向かうチェリン。

廊下を歩きながら、通りすぎる部屋の一つ一つに目をやる。
 
  「........」

3年前、この場所でサンヒョクと交わした言葉が 甦る。

      『ユジンは...!? 誰よりも先に駆けつけて当然の子が、どうして現れないわけ?』

   『あの二人は....もう別れたんだ...』

      『...!....』


(つづく)
 
 


 
(つづき)

スリッパで、ゆっくりと廊下を歩くチェリン。

あの日 倒れたチュンサンが、うなされて寝ていた病室が見える。

開いたドアから、中を覗く。

整えられたベッド。

誰もいなくて、がらんとしている。


中に入って、部屋を見まわすチェリン。

 「..........」

三年前、チュンサンをここから家まで送ったことを思う。

    『 逃げちゃいなさいよ!  ...何も知らずに.......出会ったんでしょう!  』
  
             『..........』

      『 二人が....そんな風に別れたら....     私が喜べると思う...!?』

              『...チェリナ  もう、”ミニョンさん”って呼ばないんだね....』

       『そうよ....
                    カン・ジュンサン....』

あれが、チュンサンと話をした最後だった、と思い返す。

父親の真実を知ったのは、チュンサンがアメリカに旅立ってからだった、と。


  *  *


その日の夕方。

5階のナースステーション。

カルテを見ながら、ドクターが看護婦に話をしている。

「オ・チェリンさん...511の...。
          ....MRIの方は、異常ないね。....明日の診察で問題なければ 退院でいい。」

アーよかった、という顔の看護婦。すこし、皮肉を込めて言う。

「そうですか...ご本人も、嬉しいんじゃないですか。...お忙しそうだし...」

カルテから目を上げて、看護婦の顔を見るドクター。

「あの人、お店のオーナーか何か...?」

 「やだ、先生...」

知らないんですか...?という顔の看護婦。

「デザイナーですよ....割と有名な...。....雑誌で、見たことあります。」

へぇ、という顔で小さく頷くドクター。

店のディスプレイを 電話で細かく指示していたチェリンの様子を思い出す。

看護婦が続ける。

「....ほら、ご本人も、モデル並みの容姿でしょ。だから、絵になるんでしょうね..。
                    ブティックも 経営しているらしいですよ。」

「ふーーん」

ドクターが、真面目に聞いているのを見て、「珍しいですね...先生...」と言いかける看護婦。

その言葉を かわすように、別の看護婦に話しかけるドクター。

「あ....507号室の患者のことだけど....」


  *  *


翌日、入院3日目。

ベットで雑誌を読んでいるチェリン。

部屋のドアが開き、サンヒョクが入ってくる。

「....チェリナ....どう、調子は...?」

「サンヒョク...! 」

雑誌を布団におき、うれしそうなチェリン。

「来てくれたのね。仕事は....?」

「..今日は大丈夫。」

「....で、検査、どうだった...?」といいながら、サンヒョクは 椅子に腰掛ける。

「それがね...」とうつむくチェリン。

悪い結果だったのかと、神妙な顔をするサンヒョク。

一瞬沈黙するが、吹き出すチェリン。

「...頭の中も、異常なし。...すぐ、退院よ。」

はぁーー、と息を吐くサンヒョク。

「なんだ.....脅かすなよ~」と、胸をさする。

ふふっと笑顔のチェリン。

サンヒョクも、白い歯を見せて笑う。


「ところで...」とサンヒョク。

「.....ユジンのこと、チンスクから聞いた?」

「?」という顔のチェリン。

「ユジンのこと...? 聞いてないけど...。」

にこやかなサンヒョク。

「3週間後くらいに、フランスから戻るって。...さっき聞いたんだ...」


(つづく)
  


 
(つづき)

「ほんとう....?」とチェリン。

うなずくサンヒョク。

「チョン・ユジンが、連絡してきたの?」

「いや、直接 じゃないんだけど...。」

少し慎重な口調でサンヒョクが続ける。

「...ユジンのお母さんから聞いたんだ。」


  *  *


病院の待合室。

病院着を着た人と、そのお見舞いらしき人が何人か話をしている。

長い椅子に 並んで座っているチェリンとサンヒョク。

紙コップのコーヒーを持つサンヒョクに、チェリンが言う。

 「それで...どうするつもりなの....サンヒョクは...?」

なにが...?という顔のサンヒョク。

 「ユジンの事よ...!」

しばらく、チェリンの顔をみていたサンヒョクは、視線を外して 遠くを見る。

   「さあ...」

煮え切らない態度に、イライラするチェリン。

「『さあ...』って何よ..!
               もう、忘れたの...?諦めたってこと?」

サンヒョクは、口元に微かに笑みを浮かべながら言う。

 「まだ、自分でもよくわからないよ...実感がわかないし...。」

畳み掛けるように話すチェリン。

 「ユジンとチュンサンが、あの後、会ってないことは、本当なんでしょう?」

あぁ...とうなずくサンヒョク。

「それなら...」 と言いかけるチェリン。

「..チェリナ..!」 

サンヒョクが それをさえぎる。

 「僕じゃないんだ...   ユジンを幸せにできるのは...」

前かがみに座りながら、サンヒョクが言う。

「ユジンの幸せが、僕にあるなら...
                                 .....でも...」 

軽く首をふるサンヒョク。

かみしめるように言う。

「とにかく....ユジンに、幸せになって欲しい...。そして..」

「チュンサンにも...」 と小さい声で付け加える。


少しの沈黙。

チェリンは、サンヒョクの横顔を見ながら言う。

 「サンヒョクの...サンヒョク自身の気持ちはどうなのよ...!」

サンヒョクは、コーヒーを一口含む。

そして、言葉を探すように言う。

「3年っていう時間がたって...消化できた。....って思う....。」

ひとつ息を吐く。

体を起こし、背もたれに背をつけると、チェリンを見るサンヒョク。

 「.....時間 って、すごいよね。」

視線をそらし、何度もまばたきするチェリン。

どこかで、”ミニョンさん”と呼んでいたチュンサンの声がする。

    『....君に必要なのは、僕からの電話じゃない...時間なんだ...』

そのまま、無言の二人。


廊下を歩いていた白衣の男性が、窓越しにサンヒョクとチェリンを見ながら通りすぎる。


  *  *


その日の午後。

ブラウス姿のチェリンが、退院の準備をしている。ベットの上に置いたカバンに、荷物を詰めている。

看護婦が入ってきて、チェリンに紙を渡しながらいう。

「じゃ、来月また、受診してください。」

次回の受診について書かれた紙に目をやるチェリン。

看護婦が一人なのを見て言う。

「あら...イ・ジョンヲン ドクターは、いらっしゃらないのかしら...」


(つづく)
  



(つづき)

「ドクターですか?....今日は、午前でシフトしてますが...」

「....なにか、ありました?」 とチェリンを見る看護婦。

「い...ぇ....別に。」

ドクターがいないことを知って、なにか 物足りないような思いがよぎるチェリン。

と同時に、もし 『向こうに いますけど...』 と言われたら、どうするつもりだったんだろう、と自分に問う。

一瞬、困惑したような表情をみせる。

が、すぐに (看護婦に考える余地を与えないかのように)、ベットに体を向けて 紙をカバンに詰める。


看護婦が部屋を出る。

チェリンは、もう一度、ベットの周りを見まわし カバンを手に歩き始める。


病室を出ようとすると、同室だった親子が向こうから歩いてくる。

「あ...もう、退院されるんですか...?」と母親。

「ええ...」 余裕のある今日のチェリン。

男の子の方を見て言う。

「お菓子、美味しかったわ。ありがとう。
                ....今度来る時、お姉ちゃんも なにか持ってくるからね。」

うん! と嬉しそうな男の子。

母親の方に向き直り 「失礼します...」と会釈してエレベーターの方に歩き始めるチェリン。

  「あ...、おばさん!」

チェリンを呼びとめる男の子の声。

  ......おねえさん、でしょ! 

心で思い、顔をひくつかせながら振り向くチェリン。

 「あのね~...ドクターが、つまらないって言ってたよ。
                        ...おばさんが 退院しちゃうと...!」

意表を付かれ、なんとも言えない顔をするチェリン。


      『オ・チェリンさん...面白い人ですね...!』

最初の診察の時の ドクターの笑った顔が浮かんでくる。

 「....そうね」

緩んだ表情のチェリン。

 「お姉さんも、つまんないわ....ドクターのヒゲの悪口言えなくなるし...!」

ふふっと笑う母親。

「あ、それから...」といたずらっぽく男の子に言うチェリン。

「...『お ね え さ ん』よ! 
                 今度おばさんって言ったら、承知しないからね!」


  *  *


タクシーの後部座席に乗っているチェリン。

病院からブティックに向かっている。

    『ドクターが、つまらないって言ってたよ....』

先程の、男の子の言葉をぼんやりと思い出している。


窓の外の景色に目をやる。

病院にいた三日間で、ソウルも すこし春らしくなったように感じる。


昔よく通った、見覚えのある町並みが 見えてくる。

この先を左に曲がれば、マルシアンの建物が見えてくるはず...。

チェリンは サンヒョクから聞いたユジンの帰国のことを思い出す。

      『...3週間後くらいに、フランスから戻るって.....』

視線を左右に動かし、しばらく思案顔のチェリン。

決心したように、顔を上げると 運転手に声をかける。

「すみません!」

「はい?」 とバックミラー越しにチェリンを見る運転手。

シートから体を起こして、後から声をかけるチェリン。

  「.....次の信号を、左に曲がってもらえます...?」


(つづく) 

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 (つづき)

建設設計会社・マルシアンの前。

チェリンが降りると、走り去るタクシー。

チェリンは、懐かしいレンガ色の建物を見上げる。

 「........」

ふぅ と息を吐き スプリングコートのポケットに手をいれながら、階段を上っていく。


ガラス張りのエントランスを入り、右側にある受付に向かう。

 「いらっしゃいませ」

見知らぬ受付嬢が にこやかに 声をかける。

「キム・ヒョクス次長、いらっしゃるかしら...」

口に出してから、まだ’次長’でいいだろうか、と少し考えるチェリン。

受付嬢は、マニュアルどおりの口調で答える。

 「失礼ですが、事前にお約束をされておりましたか...?」

いえ...と答えるチェリン。

「約束はしてないけど....」

「申し訳ございませんが....」

用意されたセリフを言いかける受付嬢。

構わず続けるチェリン。

「イ...いえ、カン・ジュンサン理事のことで 聞きたいことがあるって、伝えて下さい。」

少しあごを上げて指示する。

「私は、オ・チェリンです。....そう言えばわかるわ。」

威圧感のある言い方に、たじろく女性。

「あ....少しお待ちくだ...」といいかける。


その時、エントランスの扉が開いて、スーツ姿の男性が二人入ってくる。

 「二日目からは、付き添えるけど...。成田空港での出迎えは無理だな...」

  「ニューヨークから付き添う人に、東京で 一泊してもらうように 頼みますか...?」

キム次長と、少し若い男性社員が 話をしながらこちらへ向かってくる。

 「キム次長...!」

次長を見て、受付のカウンターから離れるチェリン。


  「あ...」

名前を呼ばれて 次長はチェリンに気付き、驚いた顔になる。

 「チェリンさん...!」

もうひとりの男性社員は、はじめて見る美貌の女性の顔と全身に目をやる。

その後、いぶかしげに次長を見る男性社員。

その視線を無視して、次長が言う。

「どうしたんです...?....お久しぶりですね~
                     ひょっとして...お店の改装の依頼とか...?」 

そう言いながら、ポケットに手を突っ込み 笑いかける。

笑いながら首を振ると 「そんなんじゃ...」というチェリン。

「まだ、開店して 三年ですよ!
               ......実は、ちょっと 近くを通りかかったから。それと...」

と上目遣いに次長を見る。

「次長に、聞きたいことも...あったんです。」


  *  *


以前、理事室だった部屋。

応接用のソファーに 次長とチェリンが座っている。

受付嬢が、コーヒーカップを二つ 低いテーブルの上に置く。 

ドアが閉まる音を聞いてから、チェリンが言う。

「この部屋、今は次長が...?」

「ええ...」とうなづく次長。

「もっとも...私ひとりだけじゃないですけどね....。
                      マルシアンの幹部みんなで 使ってます。」

わからない というように首をかしげるチェリン。

コーヒーを勧めるしぐさをしながら、次長が言う。

「今は、以前とちがって、共同経営のような形をとっているんですよ。
         ...理事のように、みんなをグイグイ引っ張っていく力が私にはないものですから...」

「共同経営....。 そうなんですか...」

頷くチェリン。


人懐っこい目で、次長が言う。

「ところで....チェリンさんの...’聞きたいこと’って...?」

チェリンは、真っ直ぐに次長をみる。

 「...その理事...カン・ジュンサンのことです。」

やっぱり、という次長の表情。

  「チュンサンのこと....今 どうしてるのか、知ってますよね。次長なら...。
                           .....まだ、アメリカですか?」

次長は、コーヒーカップを持ち上げると、一口味わう。

カップを戻すと、二~三度まばたきして チェリンを見る。

 「知らないって、言っても....信じてもらえそうにないですよね。」

射抜くようなチェリンの視線を受けながら 小さく顎を動かす次長。。

「ええ....アメリカです。でも....
                 それ以上は、私からは言えません。...理事と私の...約束です。」

「’約束’?」 とチェリン。

「 そうです....誰にも言わないでくれって言われています。」

にらみつけるように言うチェリン。

 「もし....チョン・ユジンに 聞かれても?」

動きを止める次長。

一瞬の沈黙。

「ユジンさんなら、ますます...」 

頷きながら続ける次長。

「私の出る幕ではないでしょう....。」

そうでしょ? と、次長は チェリンを見つめる。


(つづく)
 



 
(つづき)


  *  *

キム次長と、チェリンが元理事室から出てくる。 

歩きながら話す二人。

「入院だなんて...大変でしたね...。」

チェリンから、ブティックで倒れて病院へ運ばれた話を聞いた次長は、真面目な顔で続ける。

「仕事も大変でしょうけど...大切にしなくちゃ、嫁入り前の大事な体なんだから...。」

チェリンは まんざらでもなさそうに笑う。

「.......」

そして 一瞬考えて 次長を試すように言う。

「....そんな心配をするような時期は....もう とっくに過ぎました。」

          『心配じゃないんですか?...すごい美人と二人っきりですよ。』

     『...そんな時期は、もう 過ぎました。...よくご存知なくせに...。』

「....?.....」

きょとん、とした顔の次長。 

しかし、やがて 理解したように微笑む。


受付の前を通りすぎ、ガラスの扉をあけると 少し暖かい。

階段を下り始める二人。

チェリンに続いて降りるキム次長が 声をかける。

 「...お仲間の....皆さんは、お変わりありませんか...?」

 「ええ、みんな 元気ですよ。」

少し振り向きながら、チェリンが言う。

 「幸せを 形にした人も、いますし...。」

「えっ...?」 と聞き返す次長。

「誰です?」

ふふっと、小悪魔風に笑うチェリン。

「...だめ。 教えません。
         .....情報交換は、give and take じゃないと....フェアじゃないわ。」

次長を見上げる。

にやっと笑う次長。

  「変わりませんね....オ・チェリンさん 」


階段の一番下に着く。

「それじゃ、お大事に」 と会釈をする次長。

その様子を見ていたチェリンが、出し抜けに聞く。

「次長...いつ、シャンプーします?」

「シャンプー...?」と次長。

  「いつって...朝ですけど...。何でです...?」

チェリンは、打ち消すように手を振る。

「...いえ...何でもないです...。
               いつも、髪型がビシッと決まってるから....。」

何故か、頭に寝癖のついたドクターを思い出す。

「これが普通よね...」 とつぶやく。

不思議そうな次長の顔。


  *  *


数日後。ソウル市内の書店のレジ。

「ありがとうございました。」

イ・ジョンヲンドクターが、買った医学書を持って、店の出入口へ向かう。

雑誌コーナーでは、数人の客が 通路で立ち読みをしている。

迷惑そうに 通りぬけようとするドクター。

が、ふいに立ち止まる。

 「........」

女性が立ち読みしている雑誌の記事を、横から覗く。

            『着た人が輝く服を...』

        『新進デザイナー  オ・チェリンさんインタビュー』

タイトルの下に、にっこり微笑む、見覚えのある患者の写真。

更に、顔を近付け 記事を読むドクター。

最初に読んでいた女性が、「なによ このひと...」という視線でドクターを見る。

構わず読みすすめるドクター。


  *  *


チェリンが退院してから 三週間後。

(ユジンがフランスから帰国する日。)

チェリンのブティック。

2階の部屋で立ったまま チェリンが電話をしている。

 「そう...チョン・ユジンは、空港には着いたのね...」

  「うん...」

受話器から、チンスクのはずんだ声が聞こえる。

 「ユジンのお母さんと、ヒジンが 迎えに行ったみたいよ。..
      私も、行きたかったわ~。早く会いたい!」

  「どうせ、明日になれば会えるじゃない...。チンスク、子供ねぇ。」

「なによ...また大人ぶっちゃってさ....」とすねたチンスクのつぶやき。


手帳を見ながら、チェリンが言う。

「明日は、チンスクのアパートに....11時、よね。」

テンションの高いチンスクの声。

「そうよ。 ご馳走つくるからね。
               絶対に遅れないでよ...。」

「わかってるわよ..」


(つづく)
 
  



 
(つづき)

  *  *

翌日の午前11時頃。

昔ユジンが住んでいたアパートのそばに、車が停まる。

車から降りるチェリン。 

華やかな装いには不似合いな 狭い階段を、上っていく。


2階にある部屋の前に着く。

玄関のチャイムを2~3度鳴らす。

 「.......」 

しばらく立っているが、誰も出てくる気配がない。 

「おかしいわね....」

チェリンは、ノブに手をかける。

廻すと、カチャリとドアが開く。

 「.......」

周りを見まわしながら ゆっくりと室内に入るチェリン。

 「 こんにちはー。   チンスク!
                    ....ヨングク!
                             ....いないのー? 」

テーブルにはコップが出したまま。

床にはチヒョンの物らしい玩具が、散らかっている。

 「まったく....無用心ね」

チェリンは、スプリングコートをソファーにかけると、椅子に座って手帳を出す。


  *  *

約30分後。

待ちくたびれるチェリン。

 「もう....!  どうしたのよ!」

立ちあがって、玄関に向かう。

ヒールを履き、外に出る。


階段に差し掛かると チンスクの声が、下から聞こえる。

そして、女の子の泣き声。

 「 チヒョナ~
        ...ママよ!...いい子にしてた?」

踊り場の窓から下を見るチェリン。

チヒョンを抱っこしたチンスク、買い物袋を両手に下げたヨングク、サンヒョク そして ユジンが、
暖かな日差しの中、話をしている。


「ユジン、どうだ?...帰国したばかりだけど、慣れた...?」 とヨングクの声。

うん...とユジンの声。

チンスクの弾んだ声が続く。

「ユジナ....フランス、そんなによかったの?
                  ...全然、連絡くれないんだもん...」

        「ええ...気に入ったわ...」

黒いジャケットを着たユジンの頭が見える。

 「これからは、もう こっちにいるんでしょ?」

  「 うん...」

久しぶりに四人が揃った光景を見て、顔が緩むチェリン。

コンクリートの窓から、声をかける。

  「 チヒョンちゃんのママ!!」

みんなが、一斉に上を向く。

  「 遅いわよ!!私には、早く来いっていったくせに....
                            もう、30分も待ってるのよ!!」

上を向いて微笑む四つの顔。

 「 チェリナーー!!」

   「 ご め ~ ん」


  *  *


チンスクの作ったなべ料理を囲む、5人(とチヒョン)。

ユジンが 鍋をつつきながら言う。

 「でも、まさか...この家に、チンスクとヨングクが住んでいるとは思わなかったわ...!」

「どうして...?」とチンスク。

 「どうしてって...新婚さんだから、
                 新居に引っ越したって思い込んでたの。」

テーブルを囲む仲間を見まわして 微笑むユジン。

チンスクが、少しムキになって言う。

 「あーら、どこに住むかなんて、どうでもいいのよ....愛があれば...!」

「ねー! パパ!!」 と、夫の首を引き寄せる。

 「 う..  まあな...。」

ヨングクは、態勢を崩しながら 小声で言う。

「子供が出来たら、もう新婚さんとかいうムードでもないしさ...」

ははは、と笑うサンヒョク。 チェリンもつられて笑う。

むくれた顔のチンスク。

少しすると すぐに 「えへへ...」と笑う。

「でも、ホント言うと...」

チンスクは、首をすくめながら、目尻を下げる。

 「結婚する前は、考えたこともあったけどね...結婚したら住みたい理想の家。
                         玄関はこうで...、キッチンはこうで....って...ね。」

同意するように、うなづくサンヒョクとチェリン。

 「.........」

微笑みながら聞いていたユジンが、徐々に遠い目になる。

     『普通、考えませんか?....寝室はこう、キッチンはこんな感じ...って。』
 
     『そうかしら..。本当に好きなら、そう言うことはあんまり重要じゃないと思いますけど...。』

   『...じゃあ、何が重要なんですか...?』

     『外見としての家は、どうでもいいんです。
              ....愛する人にとっては、お互いの心が、一番大切な 家だから....』 


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(つづく)

 
 
(つづき)

  *  *

食事がほぼ終わり、チンスクが空いたお皿を 少しずつ運び始める。

「....で、ユジナ....
         これから どこに住むの......」

チェリンが聞く。

すこし伸びた髪を耳にかけながら、ユジンが言う。

「うん....今週はホテルに泊まるつもり。その間に 物件 探そうと思ってるの。」

ふーん、と頷くサンヒョクとチェリン。

チンスクが 台所から顔を出して言う。

「あさってか、その次の日、私も一緒に不動産屋さんに行くけど...チェリンはどう?」

「...わたし?」とチェリン。

「忙しくって、それどころじゃないわよ!
                 ...チンスクとは違うのよ!」

やっぱりね...というチンスクの顔。

「それに...」とチェリン。

「今週中に、病院も行かなきゃいけないし....」

「病院?」 と首をかしげるユジン。

「...どこか悪いの...チェリナ?」

「あ....うん...ちょっと無理した時期があってね.....でも、もう大丈夫よ。」

ヨングクが、サンヒョクに同意を求めながら 言う。

「もう少しで ”カロウシ”するところだったんだ!....なっ!」

ははっと笑うサンヒョク。

「おおげさねぇ...」とチンスク。


  *  *


日が暮れて、辺りが暗くなる。

アパートをでて、車を運転しているチェリン。

助手席に、ユジンを乗せ、ホテルに向かっている。

「チェリンに運転してもらうのは、スキー場以来ね。....車、買い換えたの...?」

「ええ...新車よ。」

「いい車ね...」とうれしそうなユジン。

「いつ買ったの?」

チェリンは、前方を見ながら答える。

「去年だったかしら.....ショーが成功して買ったのよ...」

ちらっと助手席に目をやる。

「いわゆる...自分へのご褒美。」

「へぇ~」 と頷くユジン。

そのまま、窓の外に流れるソウルのネオンを 懐かしそうに見る。


「ユジナ...」 

「ん?」 

チェリンの声に、運転席を見るユジン。

「....単刀直入に聞くけど...」

チェリンが、抑えた声で聞く。

「...チュンサンとは....会ってないわけ...?」

友から目をそらし、下を向くユジン。

一瞬 間をおき 「ええ...」と答える。

「どうしてよ!?」とチェリン。

「......」

チェリンの口元をみつめるユジン。

チェリンは、責めるように続ける。

「なんで.....?  ...理解できないわ!!...ユジナ  」 

「......」

黙り込むユジン。

その様子にますます苛立ったかのように、チェリンは アクセルを踏む。

「.....さっきは、チンスクも...サンヒョクも 口には出さなかったけど....みんなが、どれだけ....!」

 「.....」

「.....どれだけ  心配したか...」

 「......」


しばらく黙っていたユジンが、顔を上げて言う。

「約束したの...チュンサンと。」

一言ずつ、考えながら続ける。

 「もう、会わないようにしようって。」

   『ユジナ...どこにいても、よく食べて、よく寝て....しっかりと生きていくって...約束して...。』

      『......』

        『...それから....もう、二度と会わないことにしよう...』


「約束ですって?....また ’約束’?」

語気を荒げて、チェリンが言う。

 「どうせなら もっと、自分達が幸せになる約束をしなさいよ...!」

     「.......」

 「変な約束して、それをバカみたいに お互い守って....
                    そういうところがそっくりよ、あなたたち二人って...!
       もう!! 考えると、イライラするわ!!」

一気にまくしたてると、チェリンは激しく ため息をつく。


ユジンは黙って聞いていたが、やがて 穏やかな顔でチェリンを見る。

「ありがとう...チェリナ。..心配してくれて....」

チェリンは、吐き捨てるように言う。

 「心配なんてしてないわよ!!    お礼なんて...やめてよね!  
                          ただ、腹が立つだけなんだから....」

「ごめん...」とつぶやくユジン。

 「....違うってば!」

 「.........」

もう一度 ささやくユジン。

   「ありがとう 」 


黙り込む二人。



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前方に、ホテルのネオンが見えてくる。

チェリンの車が、車寄せに吸い込まれていく。


  *  *

 
その翌朝。

ユジンが、設計事務所 <ポラリス> のデスクで 仕事の準備をしている。

倉庫のようなオフィスの 金属製のドアが開き、チョンアが入ってくる。

 「ユジナ!...ここに居たのね...」

急ぎ足で部屋を横切り、ユジンのデスクの前に立つチョンア。

書類を見ていたユジンは、顔を上げると 笑って言う。

 「うん...仕事久しぶりだから...なんだか緊張しちゃって...」


チョンアは、のんきな笑顔のユジンを せかすように言う。

 「.....ねえ! これちょっと見てよ....!」

持っていた雑誌のページを開くと、ユジンに向けて 広げる。

 「これ! ほら....例の....”不可能な家”じゃない?」

庭園の向こうに建つ 白い壁の家。

見開きに、同じ家が 数枚に渡って紹介されている。

  「....!....」

その写真をじっと凝視するユジン。


「 やっぱり、ね....」

ユジンの表情を見て、腕組するチョンア。

 「こんなにそっくりだなんて...あなた、アイディア盗まれたんじゃない....?」

  「.........」

ユジンは 写真の家から目をはなせない。

チョンアが、犯人を探すような口調で言う。

 「あの家の模型...誰かに見せたの?....ユジナ」

   「.......」

ユジンは、それには答えず顔を上げると、真剣な表情でチョンアを見つめる。

  「...チョンアさん...この場所がどこなのか
                       ...調べられる?」


  *  *

その2日後、チェリンのブティック。

一階で、接客をしているチェリンに、スタッフが耳打ちする。

 「先生...チンスクさんから、お電話です。」

小声で返すチェリン。

 「後で、こちらから掛けるって言って。」


「 ありがとうございました。...また、お待ちしています。」

光沢のある紙袋を手にした女性客を見送った後、2階に上がってくるチェリン。

電話を手に取り、ボタンを押す。

「もしもし...」 と相手が出る。

「チンスク...?」とチェリン。

「あ...チェリナ!?」と鼻息の荒いチンスクの声。

 「ユジンのこと、聞いた?」


(つづく)
 

 
(つづき)

 「ユジンのこと...?」

イスに座って足を組み、デスクの上の書類に目を落としながら言うチェリン。

 「知らない...何かあったの...?」

「それがね...!」 チンスクの声。

 「きのう、見たい家があるからって...行っちゃったのよ。」

なんだ、そんなこと....。

すこしバカにしたような口調でチェリンが言う。

 「...物件探しでしょ。この間、聞いたわよ...」

空いている方の手で、書類をペラペラと見るチェリン。

 「チンスクも不動産屋、一緒に行くんじゃなかった...?」


 「違うのよ!!   ....なんとかっていう島にある家を、見に行ったのよ...」

   「.......」

書類をめくっていた手を止めるチェリン。

「...島...?」 とつぶやき顔を上げる。

 「どういうこと?   わかるように説明してよ...。」

うん...と準備するようなチンスクの声。


「昨日の朝はやく、ユジンから電話があったの。
  ...どうしても自分の目で確かめたい家があるから、ちょっと出掛ける。...又 電話するからって。」

受話器を持つ手を 替えるチェリン。

「うん、...それで?」 

「『今どこ?』ってきいたら、『釜山の近く』って。....私もびっくりしちゃって...
    『その家、どこにあるの?』ってきいたら 『なんとか』って島の名前を言ってたのよ。」

「『なんとか』じゃ、わかんないじゃない」

チンスクは相変らずチンスクだわ、と思いながら言うチェリン。

「そうよね...」

てへへ、と笑うチンスク。


チェリンは、じれったそうに受話器を握り締める。

 「それで...その後 ユジンから連絡あったの...?」

「ううん...それが...携帯に電話してもつながらないし...。ホテルに電話したけど、まだ戻ってないって...
        心配になったから、ポラリスに電話したの。そしたら、チョンアさんが、出てね...」

「うん...」

「ユジンが見に行った家は、チュンサンと関係のある家かもしれないって、教えてくれたの...」

無意識のうちに立ちあがるチェリン。

「チュンサンと...?」

「そうらしいの...その家....ユジンが、昔 設計した家にそっくりなんだって。それで....
      本当に、ユジンの設計したものだったら....実物を建てられるのは...
   一人しかいないって...」

 「.......」

     ヒトリシカ...イナイ.....

そのまま、立ちつくすチェリン。


 「...そう...」

「どうしよう...チェリナ...」 心細そうなチンスクの声。

冷静な口調で、チェリンが言う。

 「...行き先がわかってるなら、もう少し待ちましょう....。  
             .....もう、大人よ。...チヒョンが迷子になったのとは、訳が違うわ....」

 「そうよね...」

じゃあ...と受話器を置く。


「.........」

チェリンは しばらくの間 じっと部屋の一点を見つめる。

おそらく、ユジンはチュンサンに会ったんだわ....。

確信するチェリン。 

そして、どこか ほっとしている自分に気付く。



(チェリン物語 <起> おわり)


【注】 この後のつながり方ですが.....
      
      ●時系列的には、 ⇒ 「one of 創作続編」
  ●「チェリン物語」としては ⇒ チェリン物語 <承> 
    
                  となります。

                     
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~                    
   不可能な家で 見つめあい、  やがて

      別々に過ごした3年の歳月を、少しずつ語り合うユジンとチュンサン。

                      ......外島での数時間の出来事です。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・





               ユジンたちの物語 <前>




  「....どなたですか?」

不可能な家。 

海を臨むテラスで ユジンはその声に振り返る。

  「.......」

背後に立つ誰か。

  「......」


忘れられるはずのない その面影を見つめる。

少し伸びたユジンの髪が 潮風に乱れる。


  「...どなた....ですか....?」

彼は 見えない訪問者に もう一度話しかける。

「.......」


変わらない声。 

でも 何かが明らかに 変わってしまっている。

あふれる涙で 懐かしいその姿が かすんでいく。


 「........」

返事のない相手を思い サングラスの奥の見えない瞳が ゆっくりと動く。

ささやくように訊く。


  「....ユジ ン...なの...?」

    「.........」


震えるユジンの声が続く。

    「...チュンサン...
               なの..?」

  「......」

波の音が沈黙をやさしく包む。

 「...ユジナ...」

   「........」

涙はこぼれるのに 声が出ないユジン。

  .....これは...夢....?

チュンサンの見えない瞳も 涙に潤む。

身動きできない二人。


  「理事....?」

玄関の方から声がする。

「......お探し物、見つかりませんか...」

カートの運転手さんが、首だけ出してこちらをみる。

テラスで、チュンサンと見知らぬ女性が立ちすくんでいるのを見て、目をぱちぱちさせる。

「...あの...」

困った顔の運転手。


 「...あ、ごめんなさい...。」

チュンサンは、声のした方に体を向ける。

 「....お待たせしてしまいましたね。...お客さんが来て....くれて...。」

お客さん、と言う表現に なにか違和感を感じながら 続ける。

 「もう少しだけ、待っていただけますか...?」


温和な顔の運転手が、心配そうに言う。

「..ええ、私は構いませんが...。
             .....でも、そろそろ出ないと、船に 間に合わないかもしれません。」

   「.......」

ああ そうか、という顔のチュンサン。

ユジンは、チュンサンが出かけるところであったことを知るが、動けない。


チュンサンは、少し考えると、玄関に向かって言う。

「.....申し訳ないですが 予定を変えて.....これから
          船着場まで行って、知人をここに連れてきてもらえませんか....。
        僕はここで待っていますから...」

運転手は、微かに首をかしげる。

 「.....理事は 次の便に お乗りにならないという事ですか...?」

   「.....ええ...」

静かにうなづくチュンサン。

運転手は、少し考えて うなづく。

「はい...わかりました。
          ....それでは、お荷物はカートから降ろしておきます。」

「ええ、 おねがいします。」

初老の運転手は、そろりと出ていく。


「...ごめんなさい、チュンサン」

ユジンの声に、振りかえるチュンサン。

’ごめんなさい’の意味が、予定の変更に対するものであることに安心して、やさしい顔で首を振る。


チュンサンの荷物をもってきた運転手は、玄関先にそれを置きながら言う。

「あの.....。 その方は...男性ですか?」

  「えぇ...そうです。」

小さくうなづくチュンサン。

「...僕より少し年が上で、 名前は ....キム・ヒョクスです。
             ソウルへ帰るのにつきそってもらうつもりだったのですが
                        ....僕から、電話で事情を話しておきます。」

 「わかりました。」

男性は、背中を丸めてお辞儀すると 後を向いて出て行く。

カート特有のリズミカルなエンジン音が、次第に遠ざかっていく。


再び、波の音が 二人を包む。

(つづく)


(つづき)

 「.......」

微妙な距離を保ったまま、黙って立ち尽くす二人。

そばに行きたいのに 

話をしたいのに 

3年間、お互いのことを思わなかった日はなかったのに。

 「.......」

 「...困ったな...」

下を向いていたチュンサンが、ふっと笑う。

「ユジンは今どんな顔をしているの?
               ....こういう時は、見えないってことが本当に不便に思うよ。」

失明した現実を、さらりといってみるチュンサン。

ユジンも平静を保つように答える。

「 ...どんな顔だと思う?  当ててみて、チュンサン 」

「.....うーん。」

チュンサンは、少し考えてから、首を横に振る。

「....わからないな。  どんな顔?」

ユジンは、眩しそうに目を細める。

「 たぶん、あなたと同じ....。」

  「........」

顔を上げるチュンサン。

ユジンは、なつかしいその横顔を見つめながら言う。

「.......何から話せばいいのか、困ってる顔.....。」

二人は、同時にくすっと笑い、同時に視線を下げる。


  *  *


テラスで椅子に座ってるユジン。

じっと、遠くに目をやりながら、海風を感じている。

台所から、チュンサンが ティーポットとカップを乗せたお盆を運んでくる。

 「...!...」

それを見て、ユジンは驚いて立ちあがる。

「あぶないから、私が運ぶわ...!」

  「 .....大丈夫。」

チュンサンは、つま先で床を確かめながら、一歩一歩テーブルに近づく。

「 慣れてるよ。......君は座っていて。」

そう言いながら ゆっくりとテーブルに近づき、お盆を置くと白い歯を見せて笑う。

「 君は....この家の最初のお客様なんだから。」

          「.....」

その言葉に、三年前の 自分たちを思い出すユジン。

                  『 はい、  プレゼント。』

 『.....ありがとう。  君がはじめてのお客さまだ。』

              『 そう?  光栄だわ....。   いい家ね
                  ...でも、なんだか殺風景ね...。私に任せて...! 専門家よ。』

         『....このままでもいいけど...』

                『....?.....』

       『....愛する人にとっては お互いの心がいちばん大切な家なんだろう...?』


ユジンがポットに入った紅茶を、カップに注ぐ。 

柑橘系の紅茶の甘酸っぱい香りが、漂う。

急須とカップが、微かにふれあい、チン と音がする。

チュンサンは 手で椅子を確かめながら、ゆっくり 腰掛ける。

まぶしい日差しに、目を細める二人。


 「チュンサン、船に乗らなくてよかったの?」

 カップの柄に指をからめながら ユジンが言う。

「.......出掛けるところだったんでしょう?」

「.......あっ...」

チュンサンは、顔をユジンの方に向けると、それには答えず

「.....電話するんだった。」

「ごめん、ユジナ...」と、ポケットから携帯電話を取り出す。

(つづく)
 


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 (つづき)

慣れた手つきでボタンを押すチュンサン。

しばらく耳に当てるが、相手は出ないらしい。

「.....おかしいな...」とつぶやく。

ユジンは、チュンサンが耳から離した電話のディスプレイに、【圏外】の文字を見つける。

「....’圏外’って出てるわ。この島、携帯電話の電波が届かないんじゃないかしら。」

「ほんとう?...」
 
「圏外か....」 とつぶやくチュンサン。


携帯電話をたたむチュンサンをみながら、ユジンが言う。

「'キム・ヒョスク'さんって、次長のこと....よね」

チュンサンは、栗色の髪を少し揺らせながら頷く。

「うん....。 」 

心配そうにつぶやく。
     
「....次長、ちゃんと運転手さんと会えるかな。」

 「..........」 

ユジンは、船内を思い浮かべながら言う。

「....たぶん、大丈夫だと思うわ。  
              私が来る時も、船に乗ってた人、10人ぐらいだったもの。」

「....そうだね。」

チュンサンもうなづく。


少し安心したように、ゆっくりとカップに手を伸ばすチュンサン。

ユジンはそっと、チュンサンの手を、カップの柄に導く。

触れ合う指先。

「........」

  「.........」

二人の瞳が揺れる。


  *  *


近くで、小鳥がさえずる。

チュンサンを見つめるユジン。

チュンサンは、沈黙に耐えられず口を開く。

「...ユジナ、よくここがわかったね。
                .....どうして 知ったの? 」

  「...写真を見せてくれたの チョンアさんが....。
                     雑誌に載ったこの家の写真を....。」

チュンサンをまっすぐ見るユジン。

「見てすぐに、思ったわ....。 
               建てたのは あなたしかいないって....。」

 「......」

チュンサンの動きが止まる。

チュンサンを真っ直ぐに見つめて 続けるユジン。

「もう、会わないって約束したけど....でも....。本当は....
                      帰ってきたなら、会いたかったのに...。」

       「.......」

   「 連絡もしてくれなかったのは、目が....」

ユジンはそこまでいうと、『見えないから』という文節を飲み込む。

            「....」

         「 いや...僕は.....」

そう言いかけたチュンサンの脳裏に、あの日聞いた声がよみがえる。


      『チヒョン、こっちだよ!』

     『どうして、泣いているの...こっちにおいで...。』

   『...チヒョンは誰に似て、こんなにいうことを聞かないのかな...ん...? 』

    『....決まってるわ....言うことを聞かないのは、パパ似よ。』


(つづく)
 
 

 
 
(つづき)

  *  *

その頃...。

船着場から続く、緑の中の白い道を 一台のカートが走っていく。

チュンサンを船着場まで迎えにきたキム・ヒョスク次長が、助手席に座っている。

運転手さんから事情を聞き、カバンを抱えて 思案顔の次長。

のんびりと動いていく景色を眺めながら つぶやく。

「女性の来客ねえ...。」

運転席の方を向く。

「....で、その人、背が高くて美人でした?」

運転手さんは前方を見ながら、答える。

「ええ、すらりとした人でしたよ。」

ふんふん、とうなづく次長。

「....となりゃ、他には考えられないよな。」

「昔は、ニューフェイスの線もあったけど...」 と独り言。

首をかしげる運転手。

軽口とは裏腹に、どうしたもんか...と腕くみをするキム次長。

前方に、目的の家が見えてくる。


    *   *

「...チュンサン..」

不可能な家のテラスで 愛しい人を見つめるユジン。

消えることの無かったチュンサンへの想い。

  「.....チュンサン、私.....」

「....それより、ユジナ 」

チュンサンは 紅茶のカップを置く。

話を打ちきるかのように声色をかえ、父親のような表情で言う。

「...おめでとう...!サンヒョクとのこと..。
        随分前のことだろうから、なんだか間が抜けたお祝いになってしまったけど..
                       君が幸せそうで、本当に....よかった...。」

精一杯の笑顔で、自分に言い聞かせるように 言葉をつなげるチュンサン。

「真っ先に言うべきだったのに...いざとなったら言葉が 出なくて....。
                  でも....心から おめでとう...。」

「.........」


状況がわからないユジン。

「....え?.....」

何のこと...? と口の中でつぶやく。


二人の背後で、波の音に交じって カートの音が微かに聞こえ始め、少しずつ大きくなる。

そして、玄関の方から、階段を登る靴の音。

ほぼ同時に声が響く。

「やっぱり...そうだ! 」

次長の前髪が覗く。

「ユジンさん.....!」


(つづく)
 
 

 
 

 
(つづき)

「.....キム次長!」

振り向いて立ちあがるユジン。

会釈をしながら、穏やかに微笑む。

「お久しぶりです....お元気そうですね。」

次長は、荷物を床に置き、靴を脱ぎながら 陽気に言う。

「ええ...本当に、お久しぶりです。」

ユジン達の方に歩きながら、胸を擦る。

「おかげさまで元気です....と言いたいところだけど、船酔いしたみたいでね...。
                             いやー、まいった まいった!」

少し道化がかったしぐさ。

「....小さい船はゆれますからねぇ」


不自然なほどおおげさでおどけた次長の口調に、気遣いを感じるチュンサン。

「......」

チュンサンも、楽しそうに応じる。

「次長.....そんなこといって、実は二日酔いなんじゃないんです?」

  「なにー!? 」 

ふざけたように笑う次長。

なごやな空気が広がる。

ユジンも ふふっと笑いながら髪に手をやる。

「次長、今 お茶を入れてきます。
               ...あ.....それともお水のほうがいいですか?」

「...悪いなぁ...それじゃ、お言葉に甘えて、お水を一杯お願いします。
                           ...ぇっと 台所は、確か....」

そういうと、家の奥に視線を送る次長。

「次長...」

ユジンはにっこり笑っていう。

 「大丈夫です....この家のことは、配線の1つ1つまで、覚えてますから....!」


ユジンが台所に行くと、チュンサンと次長だけが残される。

しばらく、波の音だけが響く。

少し離れたところから 次長が、低いトーンで問う。

「...だい...じょうぶ..?」

無理に笑いながら、軽く首を振るチュンサン。

 「すみません、また予定を変えてしまって...」

  「....理事....そんなことはいいです。...ただ....。」

次長は、二日前のことを思い出す。


   *   *


(キム次長の回想)

二日前。

ソウルの公園。

ベンチに並んで座るチュンサンと次長。


次長が、チュンサンに言う。

「日本の学会の結果は、向こうの資料と一緒にすぐアメリカに送ってくれるそうです。
                 .....だから、私達が行ったら、すぐに見られると思いますよ。」

「そうですか...」と微笑みながら頷くチュンサン。

  「 さてと.....」

次長は、チュンサンにカンコーヒーを渡しながら続ける。

「飛行機は あさってだし...
                 .....どうします? ...理事....?」

チュンサンの肩をたたきながら、吹っ切るようにいう次長。

   「...行きたい所ないですか.....
                          ....あるんでしょ...?」

(つづく)
 
 

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